気候変動レポートより ➁IPCCが注目する「炭素除去(CDR)」とバイオ炭の科学的根拠
前回のレポートでは、IPCCがどのようなものかについて解説しました。
本稿は、気候変動対策の国際的な指針を示すIPCC報告書に基づき、温室効果ガスの排出削減だけでは不十分であり、大気中のCO₂を積極的に取り除く「炭素除去(CDR)」技術が不可欠であることを解説します。特に、IPCCが有効な手段として科学的評価を進めている「バイオ炭」に焦点を当て、その炭素貯留の仕組みや気候変動緩和における重要性、そして今後の国際的な位置づけについて、専門的な知見をわかりやすく説明します。

- IPCCについて 世界中が参照する気候変動レポート
- IPCCの役割と最新報告書AR6が示す現実
- IPCCが注目する「炭素除去(CDR)」とバイオ炭の科学的根拠《今回》
- 今後の展望 – AR7サイクルとバイオ炭研究の進化
- 総論:IPCCの知見を力に – バイオ炭で拓く企業のサステナブルな未来
3.IPCCが注目する「炭素除去(CDR)」とバイオ炭の科学的根拠
IPCCのAR6報告書、特にWGIII報告書が繰り返し示唆しているのは、世界の平均気温の上昇を抑制するためには、温室効果ガス排出量の劇的な削減(緩和)だけでは不十分であり、大気中のCO₂を能動的に除去する「炭素除去(CDR)」技術の導入が不可欠である、という点です。これは、過去に蓄積されたCO₂の影響や、削減が困難なセクターからの排出量を相殺するためにも、CDRが重要な役割を果たすことを意味しています。
CDR(炭素除去とは)
CDRには、植林・再植林のような生態系を活用した手法から、工場や発電所から排出されるCO₂を回収・貯留するCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)、そして空気中から直接CO₂を回収するDACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)など、様々な技術が含まれます。そして、これらのCDR技術の一つとして、IPCCの報告書の中で科学的な評価が進められているのが「バイオ炭」です。
IPCCではバイオ炭を評価する流れを言及
では、バイオ炭とは具体的にどのようなものでしょうか。バイオ炭とは、木材、草、農業残渣、食品廃棄物などの植物由来の有機物(バイオマス)を、酸素がほとんど存在しないか全く存在しない高温の環境下で加熱処理(炭化)することによって生成される、安定した固形の炭素を多く含む物質です。単なる「炭」とは異なり、バイオ炭は特定の条件下で製造され、施用されることで、その中に固定された炭素を数百年から数千年という長期間にわたって安定的に貯留する能力を持つ点が、気候変動対策として注目される理由です。
IPCCのWGIII報告書は、様々な緩和策を評価する中で、バイオ炭の生産と土壌への施用が、大気中のCO₂を隔離する有効な手段の一つであることを科学的に認めています。(ただし、バイオ炭の原料の種類、製造条件、土壌への施用量や方法などによって、その炭素固定効果や環境への影響は異なるため、適切な管理が重要であることも指摘されています。)
バイオマスが成長する過程で光合成によって大気中のCO₂を吸収し、その炭素を体内に蓄積します。通常、バイオマスが分解・燃焼すると、その炭素は再びCO₂として大気中に放出されます。しかし、バイオマスをバイオ炭にすることで、炭素を非常に安定した形態に変換し、土壌などに施用しても分解されにくくすることで、大気中へのCO₂放出を防ぎ、長期間にわたって炭素を「貯留」することができるのです。この「炭素を隔離する」というメカニズムが、バイオ炭がCDR技術としてIPCCも注目する科学的根拠となっています。
次回の報告においても追加調査の結果が言及か
さらに、IPCCは現在進行中の第7次評価報告書(AR7)サイクルにおいて、二酸化炭素除去(CDR)技術および炭素回収利用貯留(CCUS)に関する方法論報告書の発行を2027年に予定しています。これは、バイオ炭を含むCDR技術の温室効果ガス排出・除去量の算定・報告に関する科学的・方法論的な評価をさらに深めようというIPCCの取り組みを示しており、今後ますますバイオ炭の気候変動対策としての位置づけが明確になることが期待されます。IPCCがその科学的評価の対象としてバイオ炭の方法論にまで踏み込もうとしていることは、バイオ炭が気候変動緩和策の一つとして国際的に認識され、その重要性が高まっていることの証と言えます。
気候変動レポートより
1.IPCCについて 世界中が参照する気候変動レポート
2.IPCCの役割と最新報告書AR6が示す現実
3.IPCCが注目する「炭素除去(CDR)」とバイオ炭の科学的根拠《今回》
4.今後の展望 – AR7サイクルとバイオ炭研究の進化
5.総論:IPCCの知見を力に – バイオ炭で拓く企業のサステナブルな未来