廃棄物処理の歴史を紐解くと、かつての「公衆衛生の確保」や「焼却による減容化」を主目的とした時代から、近年の循環型社会形成に向けた「資源・エネルギー回収」へと、そのパラダイムは大きく変化してきました 。特に、生ごみや家畜ふん尿、汚泥などの有機性廃棄物(バイオマス)の適正処理と有効利用においては、微生物の働きを利用してエネルギーを取り出す「メタン発酵」と、熱化学的処理により物質回収と炭素固定を行う「バイオ炭化」という2つの技術が、現代における重要な解決策として位置づけられています 。

日本の廃棄物処理の歴史
1)明治時代から戦前(収集インフラの確立)
明治時代は東京での人口集中による都市化が進んだ時代です。上下水道インフラが十分ではなく飲料水が汚染されていたため、コレラや赤痢などの水系感染症が猛威を振るいました。また過密で不衛生な環境での生活形態や煤煙や降灰といった産業による汚染も相まって、都市空間での衛生環境の向上が大きな課題になっていました。廃棄物の分野でも1900年汚物掃除法が制定され汚物の衛生処理が自治体の義務となりました。現在の廃棄物処理法の原点です。
2)戦後の高度成長期(焼却による減容化)
戦後の高度成長期には、人口増と都市化の進展と機械・化学工業の発展に伴い大量の廃棄物が発生することになりました。1970年に現在の廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)が制定され、一般廃棄物と産業廃棄物が区分されました。また、土地の狭い日本では埋立による最終処分を継続することは困難であったことから、衛生処理にとっても都合の良い焼却が採用され、大量発生するごみの減容化が始まりました。自治体の財政改善と国庫補助金も相まって、全国の市町村に一般廃棄物の焼却施設が普及したのです。
3)分別の開始(量から質の管理へ)
生活にプラスチック製品が普及しプラスチックが焼却処理されるようになると、排ガス中の塩化水素が問題となりました。当時は排ガス処理が不十分であったのです。また、プラスチックの焼却処理により炉内温度が上昇したため、炉内の耐火物にも問題が生じました。このようなことからこの頃は、プラスチックを「燃やさないごみ(不燃ごみ)」として収集し埋立処分する自治体もありました。なんでもかんでも燃やす時代(量的管理)から分別しながら燃やす時代(質的管理)に変わっていきました。
1980年代には、焼却処理に伴いダイオキシン類が生じてしまうことが問題となりました。塩素を含むプラスチック類は勿論のこと、生ごみや調理料など塩素を含んだ廃棄物は多岐に渡り、分別だけではダイオキシン類の制御は困難でした。焼却炉内の温度、滞留時間、排ガスの温度管理とバグフィルターによる飛灰回収、そして必要に応じて灰中ダイオキシン類の処理(溶融処理など)によりダイオキシン類問題は沈静化し、現在はダイオキシン類問題は問題にならなくなりました。
4)3Rの推進と循環型社会
日本のバブル時代は、廃棄物の発生量は最大となりました。これまでは排出される廃棄物を、いかに収集し、リサイクルし、適正に処理・処分するかが問題でした。しかし、これではきりがありません。廃棄物管理は、より上流側(廃棄物が排出される前)に向かうことになります。リデュース(Reduce、発生源管理)、リユース(Reuse、所有者が変わること)、リサイクル(Recycle、粉砕・溶解などの加工、熱利用も含む)の3Rの推進が求められ、それでも排出された廃棄物は焼却など適正処理されることになりました。2000年に循環型社会形成推進基本法が成立し、大量生産・大量消費・大量廃棄から脱却を目指すことが始まりました。3Rと適正処理は手段であり、循環型社会とは、3Rと適正処理によって資源保全と環境保全が図られることを目的とした社会のことです。
5)サーキュラーエコノミー
サーキュラーエコノミーとは、循環経済と日本語では言います。私たち廃棄物や環境の専門家からすると循環型社会とほぼ同意ですが、専門家以外からするとサーキュラーエコノミーの方が分かり易いかもしれません。サーキュラーエコノミーのポイントは、①製品設計段階から循環を考慮し(廃棄物発生の抑制、リサイクルしやすい素材利用など)、②シェアリングなどモノの利用形態の変化や(モノの所有からサービス享受へ、大事に修繕しながら長く使うなど)、再生資源を利用した製造やアップサイクル・水平リサイクルを通じて、モノの価値と資源効率を最大化し、経済成長と環境保全を両立させることです。
サーキュラーエコノミー時代の廃棄物管理
1)サーキュラーエコノミーを支える廃棄物処理技術とは
前章で見てきたように、廃棄物の管理の歴史は、収集インフラの整備、焼却による廃棄物の減容化、分別による質的管理、排出後ではなく排出前の上流管理、そしてモノの価値の最大化と変遷してきました。この変遷の中で採用される技術も異なるはずです。
収集インフラ整備の時代では、とにかく集めて都市空間からできるだけ離れたところに埋める埋立処分(都市からの隔離)が主流でした。それから埋立量を最小化する焼却による減容化です。そして、焼却処理を前提としながら3Rを推進するための各種リサイクル技術が進展しました。サーキュラーエコノミーが唱われるようになり、自動車・自転車のシェアリングや製造者(販売者)が自ら製品を集めるような取組も盛んになってきました。すなわち、ハードのみならずICTやAIを活用したソフトの技術も進展しました。
サーキュラーエコノミー時代の廃棄物処理技術は焼却のみなのでしょうか?焼却処理の過程では熱回収がなされ、大規模施設では発電されているので焼却もサーキュラーエコノミー時代の廃棄物処理技術であると言えます。処理後の焼却残渣の一部は埋立ではなくセメント原料に再生利用されることもあります。
一方で焼却以外にもサーキュラーエコノミー時代で注目される技術を2つ紹介したいと思います。メタン発酵と炭化です。この2つに共通することは、私の言葉で言うと「処理しきらない技術、寸止めの技術」と言うことになります。すなわち、処理によって発生したものの利用に重きを置いた技術であることです。
2)メタン発酵
メタン発酵は、家畜ふん尿、食品廃棄物、下水汚泥などの有機性廃棄物を、空気を遮断した密閉容器内で嫌気発酵させる技術です。嫌気発酵によりバイオガス(メタン約60%、二酸化炭素約40%)が発生し、燃焼により熱利用や発電利用されます。また、同時に発生する発酵残渣(消化液やバイオ液肥と呼ばれます)中には、アンモニア性窒素とリン酸、カリウムなどの肥料成分が豊富に含まれるため農業利用されます。
これまでは、バイオガスのエネルギー利用面にのみ着目され、副産物である発酵残渣は、コストをかけて処理するもの、ならば焼却の方がよいと、発酵残渣はいわば邪魔者扱いでした。下水汚泥の処理も、特に大量発生する大都市では、汚泥減容化を目的としたメタン発酵を選択した場合、結局、汚泥処理をしなければならないため、メタン発酵よりも汚泥の焼却処理が選択されてきました。
しかし、持続可能な社会形成のためには、エネルギーとしての炭素の循環も大事ですが、食料生産に必須な土作りのための炭素、肥料としての窒素、リン、そしてカリウムの循環も大事です。メタン発酵は、焼却処理とは違う、サーキュラーエコノミー時代の処理オプションとなる大きな可能性があると思っています。
3)炭化(熱分解技術の一つ)
炭化もメタン発酵と同じような特徴を持っています。酸素を遮断し、燃焼せずに熱分解により合成ガス(一酸化炭素と水素)を発生させエネルギー利用し、生産物は炭として利用する技術です。炭化には様々な課題はありましたが、生産物である炭の利用先に苦慮していました。また、混合物である一般廃棄物の炭化処理では、均一に炭化することが困難であったため、タール分の付着など維持管理にコストがかかってしまうことも課題でした。できるだけ均質な原料を炭化することで、これらの問題も解決可能であると思います。
炭は元来、エネルギー源としてだけではなく、土壌改良材として農業に利用され、また床下調湿材として建材に利用されてきました。一定の条件の下で生産されたバイオ炭は、温室効果ガス発生抑制に貢献する炭素貯留の効果、土壌改良材(水保持、肥料保持能力の向上、微生物環境の改善など)としての効果が期待されています。
なお、熱分解は温度帯によって主たる目的が異なる多様な技術です。400~700℃での熱分解は炭化と呼ばれており、炭生産を目的としています。もう少し温度帯が高い800~900℃以上はガス化と呼ばれており、一酸化炭素と水素からなる可燃性ガスの回収を主目的としています。これらの中間域である400〜900℃では、オイルや炭も生成されます。また、200~300℃は半炭化(トレファクション)と呼ばれており、バイオマスペレットの熱量増加やバイオマスの前処理として耐水性や粉砕の向上のために利用されることもあります。
このように炭化などの熱分解技術は、きっとサーキュラーエコノミー時代の技術として利用価値が高まると思っています。
おわりに
今は、「排出された廃棄物を処理する時代」から「(廃棄物とは言わずに)資源を価値が最大となるように循環する時代」への過渡期にあると思います。炭化などの熱分解は、サーキュラーエコノミー時代を支える一つの主要な技術であると言えます。熱分解技術は資源を元素レベルに分解し、再生利用ができる技術としても近年注目を集め、多くの研究が行われている分野です。

執筆者情報
石井 一英 氏 / 工学博士
北海道大学大学院工学研究科博士課程修了。
専門は環境工学、廃棄物工学、および環境情報学。
長年にわたり、廃棄物の物理選別や生物学的処理プロセス(コンポスト化・メタン発酵など)の数理モデル化、およびライフサイクルアセスメント(LCA)を用いた環境影響評価を専門としています。近年では、「スマート・ウェイスト・マネジメント」を提唱し、画像認識技術を用いた廃棄物組成の自動推定や、収集運搬路の最適化など、DXによる環境問題の解決に注力しています。
日本廃棄物資源循環学会(JSMCWM)などの主要学会において理事や委員を歴任し、国内外の資源循環政策の発展に寄与。次世代の環境エンジニアの育成にも情熱を注いでいます。